建設現場の3Kは「新3K」に変わるのか? リアルな実態に迫る
2021.04.14
建設業は、「きつい」「汚い」「危険」――「3K」の労働環境だといわれてきました。
しかし、現在は国土交通省の主導により建設業界の働き方改革が推進され、3Kを「新3K」に変えるための取り組みが進められています。
建設業の労働環境と、「新3K」の取り組みの実態について解説しましょう。
(今回のポイント)
①建設業界の人手不足は深刻! 就業人口は減りつづけている!?
②「建設業界=3K」のイメージは根強く、「子どもには建設業界に入ってほしくない!」という親世代も……
③しかし、「建設業界=3K」のイメージはもう古い! 職場環境改善が進み、「新3K」に変わりつつある
人材不足が深刻化する建設業界
まずは、建設業界を取り巻く環境について見てみましょう。
・若手から不人気……減り続ける建設業界の人口
建設業界の許可業者数と就業人口の推移を見ると、1999年ごろをピークに減少の一途を辿っています。
建設会社の数は、なんとピークから20万社近くも減ってしまいました。
2011年3月に起きた東日本大震災の復興需要や東京オリンピック関連工事によって、業界規模は一時的な横ばい傾向を見せているものの、長期的なダウントレンドは明らか。
くわえて、建設業界の就業者の高齢化も深刻な問題です。
1999年と2009年で比べると、新規学卒者が建設業界に入ってくる数は半分近くに落ち込み、現在でも回復の兆しは見られません。
業界に蔓延する「3K」のイメージが若者に嫌われ、次世代を担う若手人材が、どんどん減っているのです。
・給与と休日の問題
建設業界の給与水準と休みの日数は、全業種の平均と比べると、ともに低水準です。
給与が低くなりがちな原因としては、建設業の就業者は正社員が少なく、「現場1日いくら」の日当制の労働で生計を立てている人が多いことがあります。
雨で作業が中止になれば、その日の仕事が休みになってしまい、安定した稼ぎが得られません。
会社に所属していても、土日祝日の工事に駆り出されることもしばしば。
このような労働環境や、ガテン系のイメージが世間に浸透し、建設業界は3K業界の代表格といわれるようになってしまったといえます。
・子どもを建設業界に入れたくない親たち
このような「3K」のイメージは、高度経済成長期からバブル期にかけて形成されたといえます。
したがって、新社会人になる世代の子どもを持つ親の多くが「建設業界=3K」というイメージを持っており、「我が子には3Kの建設業界に行ってほしくない」と考えているのも、建設業界の人材不足の一員です。
とくに、親が建設業界と無縁の世界で生きてきた場合、「建設業嫌い」がより顕著な傾向にあります。
建設業界の労働環境改善が進んでいるにもかかわらず、それを知らずに昔の3Kのイメージを引っ張っており、実態を知らないのに偏見で建設業界を避けるよう子どもに勧めてしまうのです。
業界を救う「新3K」革命とは?
建設業界は、住まいや働く場所、道路や水道などの欠かせないインフラを維持する重要な仕事。
そこで国土交通省は、「給与・休暇・希望」という「新3K」の方針を打ち出し、さまざまな取り組みを進めています。
・国が発注する工事から「給与・休暇・希望」を推進
国交省は「新3K」を実現すべく、すでに具体的な活動を行なっています。
たとえば、2020年以降の国交省からの発注工事については、原則すべて週休2日を実現できる工期で設定されています。
建設業の賃金水準を向上させて休日を増やすため、まずは国が発注する工事で業界を改善しようとするねらいです。
・「ICT工事」による生産性革命
今後注目したいのが、国交省の新3K実現に向けた指針でも重視されている、「ICT(情報通信技術)工事」の推進です。
従来、建設業界は作業員のマンパワーによって施工する、アナログな面が強い業界でした。
しかし最近になって、建設業界でもさまざまな「建設テック」が登場しています。
たとえば、ドローンとレーザースキャナーを使ったデジタル測量、タブレットとアプリを使った現場スタッフ内の工事進捗情報共有、3D施工図の導入……。
多くの企業が、ICT工事による建設現場の生産性向上に取り組んでいるのです。
国土交通省は、ICT工事の取り組みを必要経費に計上し、また、ICT化の度合いを入札結果の評価基準にくわえた「ICT施工」を、2019年度末時点で5000件以上も発注しています。
今後、建設業界のICT化がさらに推進されるのは間違いないでしょう。
・生産性が上がれば新3Kは実現できる
建設業界全体が生産性を向上させれば、一つひとつの現場に潤沢な予算を投入できるようになります。
社員や作業員の給料は上がり、皆が十分な休暇を取れるだけの人材を確保し、工事の安全性を保つ施策にも費用をかけられるようになるのです。
それぞれの建設会社が新3Kを目指して経営努力に取り組むことで、若い人材も戻ってくるような、明るい未来を拓くことができます。
まとめ
建設業界は、ピーク時に比べて縮小していますが、国の主導によって建設業界に明るい兆しが見えています。
建設業が3Kだったのは昔のこと。特に職場の環境については、働き方改革やコロナ対応によって大きな変革が訪れており、建設業界の労働環境はどんどん改善しているのです。 旧態依然の建設業界という世間のイメージを払拭できるよう、業界全体が一丸となってさらなる働き方改革に取り組めば、建設業の復権は現実のものになるでしょう。
著者:小飯塚隼人(こいづか・はやと)
1983年生まれ。前職は大手損害保険会社にて代理店の営業推進を担当。「お客さまに一番近いところで保険を提案して、もっと喜んでもらえる仕事がしたい」との思いから、万が一のさいは保険でしっかりとお客さまを守る保険ショップパートナーの経営理念に魅力を感じ、2015年3月に同社に入社。同年11月に取締役社長に就任。「建設業をサポートする日本一の会社になる」という志のもと、年間2,000件を超える建設業保険の相談を受けるとともに、安全大会の講師も務める。得意分野は事故対応、事故対策、外装系など。趣味は映画、ランニング。